昔からV系のバンドが大好きで、男でも女でもない、とにかく凄く美しい存在になりたかった。そんな俺にとって、まるで二次元の世界から出てきたような妖艶なヴィジュアル系の姿は、この世の美を全て手に入れているかのようだった。
俺が小中学生の頃は、GLAY、ラルクアンシエル、Dir en grey、ジャンヌダルクが有名で、ガチのV系好きの皆さんから言えばどこまでがヴィジュアル系かと言えばなかなか線引きが難しい部分はある。とくにJ-POPと分類されているようなバンドは、アニソンで使われたり、テレビに出演していたりして、これはV系なのではないかと思う場面が多かった。中にはテレビで「V系バンド扱いされた」と怒り、途中で帰るバンドもいたそうだ。
俺がよりディープなV系が聞きたくなったのは、カリガリ、ムック、ヴィドール、彩冷えるの影響だった。インディーズのまだ出てきていないバンドが聞きたくなり、テレビで我慢できなくなった俺は、ネットで有名どころを押さえて聞きまくっていた。それが高校時代だったと思う。髪を伸ばしたかったが、金もなかったし、親に洗脳されていたし、社会の常識に囚われていたので出来なかった。
早く髪の毛をメチャクチャに伸ばして女みたいな恰好をして町を練り歩きたい。そんな欲望を心に秘めながら悶々とした高校生活を送っていた。生徒会で一緒になったYは、ジャンヌダルクやガゼットを貸してくれた。それを聞きながらV系の憧れをより強いものにしていた。
しかし、所詮は子供。色々インディーズを聞くにつれて熱い思いも薄れてくる。マキシマムザホルモンと銀杏Boyzにハマった俺は、V系からパンクへ移行する。その頃は、マキシマムザホルモンもメジャーではなく、学校でも誰も知らなかった。高校時代は時間を潰す場所がないので、大抵ジャスコ(今のイオン)かカラオケに行っていた。いつものようにカラオケに行き、分厚いカラオケの本をパラパラと捲っているとフルカラーのあるページで俺の指が止まった。それが俺と蜉蝣の出会いだった。フルカラーなのにページは真っ黒で、これなら白黒でも同じだろうと思った。長髪の男が沢山並んでいる。メチャクチャカッコいい。これは一体なんだろう。写真の下には大きく『蜉蝣』と書かれていた。
それから2、3年。蜉蝣の印象をすっかり忘れた俺は大学生になり、リサイクルショップで変わったCDを探していた。安いCDを見つけては購入して高値で売っていた。俺がその日行ったのは、ハードオフ。セールコーナーをガサガサ漁り面白いCDを探してみる。
ジップロックみたいな入れ物にCDと手ぬぐいが入ったCDを発見。サクラクラクラと書かれたCDは、蜉蝣のシングルだった。とても斬新なCDと販売方法だったので面白くて購入。100円だったと思う。他にも探すと「腐った海で溺れかけている僕を救ってくれた君」「XII dizzy」「白い鴉」等蜉蝣のCDが山のようにあった。俺は全部購入。シングルは100円、アルバムも1,000円くらいで買えた。
その中で真っ黒なアルバム「蜉蝣」があった。ジャケットは真っ黒で何も見えないが、よく見ると蜉蝣と書いてある。蜉蝣の蜉蝣ってアルバムだ。あぶらだこみたいなもんだね。これがファーストアルバムで内容も過激で暗黒、とても暗くて救いがない。だからこそ名盤で何度も聞きたくなる。
有名な曲も数多くあるが、聞いて欲しいのは一番最後の「渦」。ファンの方には勝手な事を言うなと言う人もいるかもしれないが、俺は蜉蝣、そして亡くなったvocal大佑の想いがこの1曲に詰まっているような気がしてならない。歌詞は載せられないが、是非とも聞いて欲しい。他の曲とは違う色を感じざるを得ない「渦」は、異常に暗くてリアリティがある。飲み込まれていく渦の中から這い出ようとしてもがき苦しむ。そんな辛く苦しい叫びを歌い綴る。胸が締め付けられるようなこの曲は迷曲と呼ぶにふさわしい。