青空文庫1 「秋」蔵原伸二郎

「秋」蔵原伸二郎

釣竿の影がうつつている
この無限の中で
釣をする人は
しつかり岩の上に坐つたまま
ねむつている
ねむつたまま竿をにぎつている
今日は川魚たちの祝祭日
みんな青い時間の流れにそつて
さがつている針を
横目でにらみながら通りすぎる
今までどうにか生き残つた魚たちの
今日はお祭りなんだよ
先頭を行く逞しい雄のあとを
紅いろに着飾つた雌たちが
一列になつておよいでゆく
水底の砂にゆれる光る青空と白い雲

人間の世界でも秋祭りなんだなあ!
遠い太鼓の音が
この川底までひびいてくる

底本:「近代浪漫派文庫 29 大木惇夫 蔵原伸二郎」新学社

2005(平成17)年10月12日第1刷発行

短時間で直ぐに詠み終える詩を探していた。青空文庫の新着で見つけたのが蔵原伸二郎の「秋」だった。時間は1分と書いてあったが、正直30秒程で詠み終えた。1回目は何の感想も無かった。2回目に改めて詠んでみると、この詩が魚の視点で詠まれている事が分かる。まるで絵本のように色鮮やかに脳裏に浮かぶ。単語の一つ一つは、小中学生でも理解できる簡単なもので、文脈も決して難しくは無い。不思議なのは、擬音が無いにもかかわらず音が聞こえる気がする事だ。魚が通り過ぎる音も太鼓の音は、読み手によって捉え方が異なる。扉の叩き方1つとっても「トントン」だったり「ドンドン」だったり、人によっては「コンコン」かもしれない。この詩は、読み手に音を想像させる。「遠い太鼓の音が この川底までひびいてくる」と言う部分を詠むと、太鼓の音が響き、揺れる波の景色が浮かんでくる。短文の中に沢山の情報を詰め込んだ素晴らしい詩だ。


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