天より下にありし者 交通誘導員 374日目 『左官』という仕事を知っているか?
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現場出入口でいつものように立っていると見慣れない軽バンが、入って行った。痩せこけた猫背のオジサンで、年齢は60代くらい。昔の体育教師のような上下黒のジャージ、縦に紫色の線が入っている。黒縁の眼鏡をかけ、髭がボーボー。朝礼で「左官1」という聞きなれない人員を思い出し、彼が左官であることを知った。

左官(さかん)とは、建物の壁や床、土塀などを、こてを使って塗り仕上げる仕事、またそれを専門とする職種のこと。

『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より。

俺の立っている場所から現場までは結構離れていた。俺の目の前は、道路を挟んでもう1か所の現場があり、左官のオジサンは、その2か所の現場を行ったり来たりしていた。「大変ですね」と声をかけると「立ってる方が大変だろ?」と言われ、「もう疲れちゃったよ。登ったり下りたり」と苦笑いを浮かべていた。前歯はほとんどなかったが、その笑顔はなんだか嫌いになれない。全身からタバコの臭いを漂わせながらバケツを持ってフラフラと歩きだす。

左官のオジサンは、他の作業員とは違う業者の人なので、1人で軽バンに乗ってやってきて、黙々と仕事をして、決まった時間にさっと帰っていく。1度だけ2人で来ていたこともあったが、基本は1人だった。少し仲良くなった俺は、会う度にどうでもいい話をしてオジサンを笑わせていた。オジサンも打ち解けると積極的に話しかけてきてくれた。

ある時、オジサンが「寒いなぁ」と言いながら近づいて来た。防寒着で完全に着込んだ俺に対して、左官のオジサンはいつものジャージにペラペラのナイロンジャケットしか着ていなかった。俺は思わず吹き出して「いや、こんなペラペラじゃ絶対寒いですよ」とオジサンのジャケットを引っ張った。オジサンは、少し嬉しそうに照れ笑いを浮かべて「あぁ、コレ寒いんだ」と言ってニヤニヤ笑って、現場に戻って行った。

オジサンは仕事熱心で、昼の時間になってもすぐに休憩に入らず、休んでもすぐに仕事へ戻っていく。「休まないんですか?」と聞くと、「なんだか気になる」のだそう。休憩中にバックミラーに映ったオジサンの背中を無言で見つめる。あんなにカッコいい猫背は見たことがない。歯はないけど(笑)

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