映画鑑賞59 この世界の片隅に
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嫁が見たいと言い出したのでレンタルした。映画好きの友人が太鼓判を押し、世間でも圧倒的に評価されている。いざ見てみるとなかなかの傑作だった。「火垂るの墓」「はだしのゲン」をイメージしていたが、それとはまた違った。どちらかと言えば「おもひでぽろぽろ」の方が近い印象だった。やわらかで繊細な絵のタッチとは真逆に、映画や漫画を合わせて過去に見たどんな戦争作品よりもリアリティがあった。他作品には見られない生々しさを感じた。しかし、戦争作品にありがちな厳しい食生活、辛い労働、貧困、格差、いじめ等のネガティブな時代背景ばかりでない点は非常に好感を持てた。

時代背景に関して思ったのは、意外と何でも揃っていること。今に比べれば何もないかもしれない。というより今がありすぎなんだと思う。駅や街の描写、人々の食生活やファッションが鮮明に細かく描かれているが、この世界には、余計なものがないように思える。スッキリしている。看板や宣伝の張り紙もなく、不要なものが何もない。必要最低限なものしか街にはない。モノや食べ物は大切にする。何も残さず、何も捨てない。今で言うエコやリサイクルに近い精神が全員に宿っている。道草に生えている雑草を食べたり、誰かが着ていた着物を縫い直して別の者が着る。今の時代にはないものが沢山あった。

マイペースで前向きでちょっとおっちょこちょいな主人公が、結婚して、嫁ぎ先で旦那の家族と暮らす。何でもないささやかな日常が、空爆や戦争で簡単に壊されてしまう。一緒にいた人がいなくなり、いつもの街並みが消え失せる。そんな中でも、近所の人が声を掛け合って、色んなものを分け合って、愚痴を言い合って笑い合う。そして、誰も居ない所で落ち込んで、泣きじゃくる。本当は泣き叫びたい気持ちを押し殺して懸命に生きる人々は見ていて感動する。

どのシーンも簡単には語り切れないし、名場面が多かった。その中でも印象的で泣いてしまったシーンがある。戦時中は、爆撃されないように夜は食卓の電球を囲って暗闇で食事をとっていた。戦争が終わって、保存していた白米を何も混ぜずに炊いたシーン。義父が、電球の囲いを取り外して「真っ白なご飯が見えんじゃろう」と言い、それぞれの家庭に灯がともるシーンにグッときた。日本の歴史を残すうえで、非常に重要な作品だと思う。

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