京極夏彦先生の作品を読むのはお恥ずかしながら初めてです。俺は、小学生時代から熱狂的な水木しげる信者だった。古本屋を巡っては、妖怪関連の漫画や妖怪図鑑を買いあさり、何回も何回も読みつくした。今考えると、妖怪図鑑だけじゃなかった。図鑑や辞典が好きだった。妖怪辞典、妖怪図鑑、マリオキャラクター大辞典、星のカービィ全百科。ゲームボーイ時代のポケモンも、攻略本を小説のようにじっくり読んでいたような気がする。特に水木しげるの妖怪図鑑は全力で集めて、全力で読みまくっていた。図書館でも児童センターでも読むのは妖怪、オバケ、幽霊の類。妖怪を模写したり、自分で描いたオリジナル漫画に鬼太郎を登場させたりと熱中ぶりはちょっと異常で、完全に自分の世界にのめり込んでいた。勿論、妖怪の小説やちょっと大人向けの妖怪図鑑も読んだ。しかし、そこはやっぱり子供でほとんど飛ばし読みw水木しげるの絵ばかりに目がいってしまい、説明文はあまり丁寧に読まなかった。
角川書店から出ている日本を代表する妖怪博士が執筆した「怪」という雑誌が出版されている。書店で見つけた時、表紙に掲載されていたのは、水木しげる、荒俣宏、京極夏彦、宮部みゆき。豪華すぎてショックを受けた。まさに日本のオカルト、SF、超常現象、幻想その他もろもろのエリート先生ばかりではないか…。恐るべし「怪」!!これはガロにも引けを取らないサブカルっぷりだぜ…と脱線しちゃいましたが…。
そんなにエリートとかほざいておいて初の京極先生なわけなんですが、まず分厚い。とにかく分厚い。文庫本のコーナーで1メートル先からでも「あれは京極夏彦だ」とわかる。「塗仏の宴 宴の支度」「塗仏の宴 宴の始末」に至っては2冊で1248ページというまさに妖怪サイズとなっている。小説家としてだけでなく、声優や俳優としても活躍しており、本当に何でもできる人なんだなぁと心から尊敬してしまう。
今回、読んだのは「百鬼夜行 陰」。百鬼夜行は京極先生がデビュー作から続いているシリーズとのこと。妖怪作家の京極先生なのでさぞ妖怪がわんさか出てきて大暴れするに違いないと思っていたが、実は違う。でも妖怪は出る。この演出が凄い。学校の怪談、ゲゲゲの鬼太郎、地獄先生ぬーべーのようにバー!!ガー!!っと妖怪が飛び出してくるわけではない。どちらかと言えば「もういる」「いる様な気がする」「まさかあれは」という出方。中には、本当にそれは妖怪だったのか?と疑いたく様な物語もあった。全て短編で、時代背景も主人公も世界観も全く違う。ほとんどの主人公たちは、何かを怖がったり、何かの存在を感じている。物語が進むにつれて、それは過去の何かがトラウマのように主人公に憑りついている。そんな話が多い。その点では、妖怪物語と言うよりも、謎を解くミステリー小説と言った方が良いかもしれない。読者にオチを予想させておいて、最後の2行で後ろからぶん殴るラストは拍手喝采するしかない。京極先生の本は、なかなか挑戦するには見た目(重圧w)がデカいので正直な話「読み切れるのだろうか…」という不安もあるだろうが安心して欲しい。短編で読みやすく、一日一話でも十分楽しめる。