精神科医で医学博士の岡田先生の「異常心理」について書かれた心理学の本である。過去の偉人たちが、実は異常心理の人間だったということが詳しく書かれている。タイトルが気になったので購入したが、異常心理の偉人たちの名前をあげればサブカル好きが唸るであろうメンツが勢揃いしている。三島由紀夫、バタイユ、サド、夏目漱石、ドストエフスキー等々。
第1章では、完璧主義の恐ろしさについて書かれている。岡田氏によると完璧主義は、「あらかじめ期待していたことを、その通りに行わないと、すべてが台無しになったような失望や苦痛を感じる心理的なとらわれ」だと言う。本書で完璧主義者ではないかと岡田氏が話す偉人たちが三島由紀夫、ガンジーであった。三島由紀夫は何となく分かる様な気もするが、ガンジーは意外な気がする。
三島由紀夫のエピソードとしては。某有名作曲家とオペラの仕事をした際に、作曲家の仕事が締め切りに間に合わず、三島に詫びを入れて、上演時期の延期を申し出たが、三島は作品の上演自体を取りやめて、作曲家と絶縁したという。完璧主義というよりもやり過ぎな気が…。しかし、それは相手に一方的に約束を守らせたわけではないようだ。三島自身、遅刻は一度もなく、原稿などの締め切りも遅れた事は無いそうだ。ガンジーについては、完璧主義者になるまでの経緯は飛ばすが、禁欲生活に囚われた人生を歩んでいた。最初は、洗濯屋に頼んでいた洗濯を自分でやるとか散髪も自分でやるなど、あくまで普通の節約を行っていた。便所掃除も使用人にはやらせず自分で行っていたそうだ。弁護士(ガンジーが弁護士だったなんて知らなかった…)の様な社会的地位がある人がそういう行為をすること自体が当時は異常だったという。これだけであれば、ガンジーはそこまでの完璧主義者と呼べるのか疑問になってくるが、ガンジーの禁欲は次第にエスカレートしていく。
ガンジーはついに、禁欲生活を徹底するようになる。お茶を飲むことも自らに禁じ、さらに塩を絶ち、豆を絶った。豆は菜食主義者にとって、貴重なタンパク源だった。それさえも拒んだのである。ついに穀物をとることも止めて、果物(それも安くて、自分たちの農園で手に入るもの)だけをとり、そのうえ、定期的に断食をするようになる。
【あなたの中の異常心理/岡田尊司】
岡田氏は、完璧癖が強い人は、不完全である恐怖は自分という存在を根底から不安に陥れると言う。他人が、冗談で言った事を真剣に悩んで死んでしまう場合もあるらしい。何でも頑張って結果を残して自分が思うとおりに生きてきた人間は案外脆いって事なんだろうか。という事は、医者が「頑張らない方が良いですよ」と完璧主義者の人に話すと、相手は「完璧に頑張らない」を実行して結果命を落としかねないということになるんだろうか?この章の最後に、我らが水木しげる氏について書かれている。軍国主義の時代に馴染めず、就職してもクビ、高校受験をしても51人受けて50人受かる受験に落ち、兵隊になれば誰よりも一番殴られる、玉砕命令が出ても死なずに戻ると上官に「なぜ死ななかった」と怒鳴られ、マラリアにかかって片腕を失う…水木しげる氏が完璧主義者だったら命がいくつあっても足りない。確かにw